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経済の大きな流れ ―問題点と将来の展望― 【第3回】財政赤字に支えられる日本経済

水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授

日本経済は成長力を失くした。それでも大きな歪みはなく、国民は安寧を貪っている。身近な目先の問題を議論するだけで、国全体の将来を考えることが少ない。しかし、個人にとっても企業にとっても、国家経済の影響は大きい。日本経済の将来を展望し、対応を考えるシリーズ連載。

財政赤字に支えられる日本経済
 ―膨大な国債残高の限界―

 景気が良いことは喜ばしい。企業は儲かる。給料が上がって人々が豊かになる。政府は税金が余分に入る。それらが使われ、ますます景気が良くなる。世の中が明るくなる。
 
 景気が悪くなると真逆になる。企業の業績が悪化し、倒産も現実的になる。失業が増え、給料も減る。政府は税収不足に陥る。節約志向が強まり、それが売り上げを減少させる。悪循環になり、ますます景気が悪化する。
 
 景気の悪化を止め、引き上げることが望まれる。政府による景気振興である。大きく景気を左右する方法として財政金融政策が活用される。
 
 景気を活性化するために利用されるのが財政政策である、その中身は減税と財政支出の増加である。減税によって人々の懐が豊かになれば、消費が増え景気が良くなる。企業は減税で使える資金が増加し、投資が増えて活気が出てくる。減税を喜ばない人はいない。
 
 政府の支出が増えると、誰かの懐へ資金が入る。それが使われて需要が増加する。公共投資が関連する企業の仕事を増やし、地域の活性化にも役立つ。どこもが大歓迎である。
 
 ただし政府にとっては問題である。減税で収入が減り、そのうえ財政支出の増加で赤字になるからである。ところが、その結果として景気が上昇すれば、企業の業績が向上して法人税が増加する。個人の収入も増えて所得税も増大する。人々が多く買うため消費税も増える。その結果、いったん増大した財政赤字は縮小し、さらに景気の上昇が続けば、黒字になると言われる。
 
 目先の人気取りに傾きがちな政府は赤字財政を利用する。それは国民の意向でもある。
 
 長年にわたり景気が悪化すると赤字財政政策が活用されて景気を下支えし引き上げてきた。景気が良くなると、政府は赤字を解消するために増大した財政支出を抑え、減税した分を元へ戻そうとする。しかし、そうすると、せっかく上昇した景気の足を折り、景気が悪化する。誰も歓迎しないだけではなく大反対である。
 
 景気が上昇を続ければ良いが、現実には景気が循環して再び下降に向かう。すると赤字財政が呼び戻される。景気刺激の効果は赤字の上乗せ分である。赤字幅を増加させなければならない。この繰り返しが続いてきた。
 
 経済成長率が落ちると、引き上げるために財政政策が発動された。その結果、我が国の経済は一時的に伸びが鈍化しても再び高い成長率に戻り、高度成長を続けた。しかし成長率の鈍化を恐れたために、財政赤字を本格的に縮小させることができなかった。
 
 日本経済が成長しなくなると、赤字財政への依存はますます大きくなる。赤字幅が増大する。そのおかげで景気は大きく落ち込むことなく推移してきた。しかし財政赤字は膨大な額になっており、それをさらに大幅に拡大することができないため、もはや財政に景気を大きく引き上げる力はない。
 
 毎年の膨大な赤字の累積としての国債残高が急増を続け、その金利支払いと償還の負担は将来の国民を苦しめる。それが限界をはるかに超えているのである。
 
 将来の国民の悲惨さに眼を瞑り、現在の我々の幸福だけを追求している現実を認識し、財政の大改革をする必要がある。
 
 その時、現在の経済水準は大きく低下する。その準備が必要である。

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水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授 1933 出生
1956 名古屋大学経済学部卒業
1989 経済学博士(名古屋大学)
1956 東海銀行入行
1960-62 経済企画庁へ出向
1964-65 NY CITI Bankへ出向
1974-83 清水 秋葉原 八重洲 ニューヨ-クの各支店長
1983-92 調査部長
1993 東海銀行専務取締役退任
1993-99 東海総合研究所 理事長 社長 会長
1999-2008 中京大学教授
2012- 名古屋大学客員教授