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経済の大きな流れ ―問題点と将来の展望― 【第4回】金融に力は無くなった

水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授

日本経済は成長力を失くした。それでも大きな歪みはなく、国民は安寧を貪っている。身近な目先の問題を議論するだけで、国全体の将来を考えることが少ない。しかし、個人にとっても企業にとっても、国家経済の影響は大きい。日本経済の将来を展望し、対応を考えるシリーズ連載。

金融に力は無くなった
 ―極端な金余り―

 お金は貴重である。お金があれば何でも買うことができる。しかし使ってしまえばなくなる。お金を手に入れるのは簡単ではない。普通は働いて稼ぐ。簡単で楽な仕事が望ましいが、それでは収入が少ない。苦労しても入手する必要があるのがお金である。
 
 誰でも必要な資金は貯めている。しかし貯えがなくても資金が手に入れば、必要なものを買うことができる。借金が一つの有力な方法である。
 
 社会全体として資金が不足している場合は、個人も企業も資金を節約するために買い控えるであろう。個人も企業も目先の消費はもちろんのこと、将来のために必要な投資も絞ることになる。資金を借りることができれば、買うことができる。借りたい人や企業が多く、貸す資金が乏しいとお金の値打ちが高くなる。金利は上がる。
 
 社会全体に資金が豊富にある場合は正反対になる。資金があっても買わないのであり、借りる必要はない。人も企業も余った資金を少しでも有利に運用することを考える。余った資金の値打ちは下がる。金利は低下する。
 
 資金は足らないのが通常である。そこで資金を操作することによって、すなわち金融政策によって経済情勢を動かすことができる。資金を多く出して経済活動を活発にする。逆に社会から資金を引き上げて経済活動を絞る。
 
 ところが経済社会に資金が余っていると、資金の力は無くなる。中央銀行が資金を多く提供しても、余った資金がより余るだけである。逆に中央銀行が資金を引き上げても、資金不足までには至らない。経済情勢に影響を及ぼすことができない。
 
 多くの国々と同様に我が国でも、かつてはインフレ気味で資金不足経済であった。そのため金融政策は強力に効果を発揮した。
 
 しかし現在は正反対のデフレであり、資金は極端な過剰になっている。
 
 我が国は長年にわたる努力の成果として生産力が高まった。良い品質の物を豊富に作れるようになっている。それを大量に海外へ輸出してきた。原油などは例外として、国内で作れないものは少ない。そのため大量に輸入する必要がない。貿易収支は大幅な黒字を続け、膨大な資金が海外から国内へ流入している。積み上がる対外資産が生み出す利益も上乗せになり入ってくる。
 
 さらに大きいのは政府から民間への資金供給である。本来、政府は民間から税金を徴収した範囲で財政支出をすることになっている。すなわち政府の民間への収支は均衡するはずである。ところが現実には膨大な財政赤字が続いている。毎年その大量の赤字分だけ民間へ資金が提供されている。それが半世紀にわたって続いているのである。
 
 そのうえ日本銀行は景気刺激のために大量の資金を供給している。
 
 もちろん、国内に旺盛な資金需要があれば資金は余らない。現実には不景気で新しく投資しても実らない恐れが強く、企業の投資意欲は乏しい。多くの企業は内部留保の範囲で間に合うため、外部から借りる必要がなくなっている。
 
 現在の我が国の資金過剰は世界の歴史でも特筆するべき状況である。長期の国債金利がマイナスになっている。資金の価値は著しく小さく、金融政策の力は無くなっている。

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水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授 1933 出生
1956 名古屋大学経済学部卒業
1989 経済学博士(名古屋大学)
1956 東海銀行入行
1960-62 経済企画庁へ出向
1964-65 NY CITI Bankへ出向
1974-83 清水 秋葉原 八重洲 ニューヨ-クの各支店長
1983-92 調査部長
1993 東海銀行専務取締役退任
1993-99 東海総合研究所 理事長 社長 会長
1999-2008 中京大学教授
2012- 名古屋大学客員教授