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中国の三位一体成長戦略:日中による一帯一路版OECDの設立を【第1回】

朽木 昭文(くちき あきふみ) 日本大学 生物資源科学部

中国の成長戦略は、「自由貿易試験区」、「中国製造2025」、「一帯一路建設」の三位一体で進んでいる。自由貿易試験区における外資を導入し、中国製造2025の産業政策を行う。中国製造2025の先端技術のセンターの1つは北京の「中関村科技園」であり、多数の世界500大企業を生み出した。一帯一路建設が、自由貿易試験区と参加国とをインフラ建設による「連結性」の強化により連携させる。日本は、一帯一路建設へ長期的にできるだけ早く参加することが不可避であることを説明する。

中国:中所得国のわなから脱する3つの成長戦略

 トランプ大統領は、中国企業に脅威を感じ、2018年に中国との米中貿易戦争を開始した。世界の有力企業フォーチュン500社(売上高)の数は、1995年に日本企業が149社であった。2018年には、日本企業が52社と3分の1となり、中国が日本の約2倍以上の120社となり、アメリカの126社に匹敵した。また、世界巨大IT企業は、アメリカのグーグル、アマゾン、アップル、FacebookのGAFAであり、これに対抗できる中国企業は、アリババ、バイドゥ、テンセントなどがある。残念ながら日本に対抗できる企業がない。
 
 さて、中国の成長戦略は着々と進行している。表1に示すように、中国のGDPは、2012-18年の平均約7%で成長し、この成長率で10年経つと約2倍となる。2030年には地球全体の4分の1の所得が中国で生まれ、日本のそれは中国の4分の1となる。
 
 経済成長が中所得国のわなと呼ばれる所得水準に達し、発展パターンの転換を迫られた。そのわなからの脱出の方向を見出した。国内ではイノベーション(革新)を最重視し、「産業構造の転換・高度化」により「中所得国のわな」からの脱出を図る。中国は、改革開放政策から産業政策として外資導入による「経済開発区」政策と「支柱産業」の育成政策を実施してきた。そして、前者が「自由貿易試験区」に、後者が「中国製造2025」につながっている。
 
 
 図1に示すように、その成長戦略として、三位一体の①「自由貿易試験区」②「中国製造2025」③「一帯一路」建設がある。
 
① 自由貿易試験区は、2013年に上海に設立された。上海自由貿易試験区は、サービス業を対象とした外資導入の実験であるという特徴がある。当初は、その対象となるサービス業として、「金融業」を中心に、航空・運輸サービス業、商業・貿易サービス、専門サービス、文化・コンテンツ、社会サービスの6分野が指定された。
 
② 中国製造2025における10大重点分野は、「次世代情報技術(人工知能、5G、IoTなど)」を始めとして、先端デジタル制御工作、航空・宇宙設備、海洋建設機械、先進軌道設備、省エネ・新エネ自動車、電力、農用機械、新素材、バイオである(国務院の2015年5月8日通知)。
 
③ 一帯一路建設は陸のシルクロードと海のシルクロードを構想している。 陸のシルクロードは3つの方向に延びている。第1は中国西北、東北から中央アジア、ロシアを経て欧州、バルト海に至るもの、 第2は中国西北から中央アジア、西アジアを経て、ペルシャ湾、地中海に至るもの、第3 は中国西南からインドシナ半島を経てインド洋に至るものである。2019年に北京で第2回「一帯一路国際協力ハイレベルフォーラム」は、38カ国の首脳を含む150カ国以上の代表が出席して開催された(2019年4月29日「央視網新聞」)。
 
 本シリーズの目的は、産業の高度化の方向が「一帯一路建設」が「中国製造2025」と「自由貿易試験区」の三位一体の成長戦略であることを明らかにすることだ。
 

 

転換点と中所得のわな

 中国の産業育成政策は、1978年の改革開放政策から順調に進められてきた。経済は、2004年以降に「転換点」を通過し、発展パターンの転換の時期に入った。経済は6-7%の成長率の軌道にある。中国は「中所得国のわな」から脱するための政策として2013年に自由貿易試験区と一帯一路建設を開始した。
そこで、本節は、次のことを説明する。経済は、転換点を過ぎ、中所得国になり、「中所得国のわな」から脱することを目指す。
 
 ところで、転換点とは、最低の生存水準賃金で雇用できなくなる点である。その水準は、人が生きていくのに必要なカロリーの食品を買うための賃金である。農村に余った労働があれば、その賃金で限りなく雇うことができる。しかし、工業部門が発展し、農村からの労働を雇用し、農村の余った労働がなくなる。
 
 人口13億人の中国は「転換点」を通過し、成長を続け、中所得となった。中所得とは、1 人当たり GDP が 2,000 ㌦から 15,000 ㌦という推計がある(Aiyar etc.(2013)による。2005年固定価格 PPP)。また世界銀行 (2013)では一人当たり国民所得では 1,005 ㌦から12,275 ㌦という考え方がある。2017年の中国のそれは8,690㌦である。
 

「中所得国のわな」に直面

 表1に示すように、中国のマクロ経済は、経済成長が順調であり、物価上昇も2%で安定し、対外経常収支と財政収支とも「安定」している。したがって、中国のマクロ経済の安定性に問題がない。過剰設備で停滞した中国は、「中国の重化学産業の過剰設備の整理は終了し、すでに石炭や鉄鋼の価格は2016年の初めから2017年8月には2倍になった」とある(ロンドン・エコノミスト2017年8月5日付け)。
 
 表1に示すように、中国の成長局面を1987年から2011年の第1局面と2012年以降の第2局面に分ける。第1局面は平均成長率が9%を超え、第2局面はそれが7%台に落ちる。
 

中所得国のわなからの脱出のための「産業構造の高度化」

 李克強首相は、「産業構造の高度化」を推進に向けて、全国を挙げて安定の中で前進を図る全般的基調を堅持し、革新、協調、グリーン、開放、共有の新発展理念を深く貫き、供給サイドの構造改革を推進し、経済構造のタイプの転換と高度化を促すと述べた(新華社2017年4月18日)。行政簡素化、権限委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化、減税と費用引き下げと通じてイノベーションによる発展戦略を促す。
 
 2017年の第12期全国人民代表大会第5回会議で発表された9重点分野は、過剰生産能力解消、改革開放、農業発展、対外開放、環境、社会建設、政府自身の建設のほかに、「産業構造の転換・高度化」とサービス産業の育成として教育、医療、観光産業の発展に力を入れる。
 
 中国科学院の11大プロジェクトのうちで、「産業構造の転換・高度化」の技術の1つがIoT(モノとインターネットの接続)である。この技術は、都市管理、生産作業、住民生活の分野に活用され、特に都市のスマート化への応用が期待されている。スマート都市ソリューションプランやスマートパーク建設が研究開発され、普及されている。このような点で日中の協力が中国国際貿易促進委員会でも期待されている(新華社4月11日)。
 

本シリーズが明らかにする三位一体の成長戦略

 以上説明したように、中国経済は、改革開放後に経済成長し、「転換点」を過ぎた。高成長を継続し、中所得国の仲間入りを果たしたが、そのわなから脱するための「産業構造の高度化」を迫られた。その解答が、①「自由貿易試験区」、②「中国製造2025」、③「一帯一路」建設の三位一体の成長戦略である。
 
 この成長戦略が有効であることを中国政府に確信させるのに十分だった成果は、北京の「中関村サイエンス・パーク」である。北京大学、清華大学、社会科学院などと北京市、中央政府が一体となった産業政策が有効に機能した。「中関村サイエンス・パーク」では、世界500大企業の育成が成功し、2017年の北京市の国有企業の数は、52となった。
 
 そこで、本シリーズは、三位一体の成長戦略の詳細を説明し、日本の一帯一路建設への参加が不可避なことを明らかにする。
 

 

 
参考文献

朽木昭文(2018)「ユーラシア・バリューチェーンと中国・新成長メカニズムの解明」、『一帯一路からユーラシア新世紀の道』、日本評論社、27-39ページ。
Aiyar S., R. Duval, D. Puy, Y.Wu, and L. Zhang(2013)“Growth Slowdowns and the Middle-Income Trap,” IMF Working Paper, WP/13/71. P.12.
IMF. Gabriel and D. Rosenblatt (2013) ‘Middle-Income Traps,’Policy Research Working Paper 6594, World Bank, p.3.

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朽木 昭文(くちき あきふみ) 日本大学 生物資源科学部 1973年京都大学農学部卒。1978年にアジア経済研究所入所後、ペンシルベニア大学客員研究員、国際協力機構(旧海外経済協力基金)、世界銀行(上級副総裁室・上級エコノミスト)に勤務。東京大学総合文化研究科特任教授、名古屋大学、立命館大学、広島大学、埼玉大学の客員教授、早稲田大学、慶応大学などの非常勤講師を併任した。日本貿易振興機構の理事を経て、現職。現在、放送大学客員教授を兼任。