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健康診断オプションの腫瘍マーカー【第2回】最も一般的な腫瘍マーカー

佐藤 浩昭 (さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科

癌は恐ろしい病気だ。出来ればなりたくないと、誰もが思っているだろう。早期発見、早期治療ができるように、検診や人間ドックを受診されている方も多い。今回のテーマは、診療や検診で登場する「腫瘍マーカー」について。測定結果で異常が出ていた際には、患者にどのように伝えようか、医師も悩んでいるそうだ。腫瘍マーカーとの付き合い方を考えるシリーズ連載を、専門家に執筆いただいた。

 今回は消化器や肺など腺癌という癌で高値となるCEAという腫瘍マーカーの話です。この腫瘍マーカーは、carcinoembryonic antigen(癌胎児性抗原)というのが正式名称で、癌は発生の段階の胎児・胚と共通の構造を有するのではということで「癌」と「胎児・胚」と関連した名称となっています。1970年代にはすでに一般的に測定され、腫瘍マーカーの王座に君臨しています。私の知る限りでは、このCEAが最も一般的な腫瘍マーカーであり、その優秀さから、後に開発された多くの腫瘍マーカーを揶揄する表現として「CEAに劣るとも勝腫瘍マーカーはなし」といわれるほどです。では、なぜCEAが重宝がられているのでしょうか。
 
 ちょっと難しい話ですが、癌の名称の多くはその癌の発生した臓器の名称のほか、組織の名称で区別され、治療法もその組織型で異なることが少なくありません。たとえば肺から発生した「腺癌」であれば、肺腺癌です。胃であれ、大腸であれ消化器の場合は「腺癌」が圧倒的に大多数を占めます。この「腺癌」ですが、分泌物の産生に関係する腺組織に類似する構造を癌がとる場合に「腺癌」と命名されるわけですが、この腺癌が発生するのは、肺、消化器、内分泌器官、腎泌尿器、婦人科臓器と多岐にわたっています。従ってCEAの守備範囲は広くなり、多くの診療科で検査を実施するということになります。
 
 ただし、検査キットも多数あり、正常値の上限も複数あるため、単純に数値の比較ができない可能性もあります。つまりメートルでの数字かヤードでの数字かキットを確かめなければならないということも生じます。5.0ng/mLという数字は示されてもキットによって正常であることも高い値であることもありうるということです。
 
 また、前回説明した「偽陽性」の問題があります。喫煙で高い値を呈することは知られていますが、間質性肺炎などのびまん性肺疾患では偽陽性例が存在することが報告されています。さらに話を難しくするのは、間質性肺炎は肺癌の発生母地となることです。これらの疾患は喫煙との関連がある訳で、この「偽陽性」での悩みを少なくするには、喫煙をしないこと。つまり、禁煙することでしょうか。
 
 蛇足ですが、腺癌の次に多くの部位から発生する扁平上皮癌ですが、この組織型は、ごく簡単に説明すると皮膚のように層造構造をとる癌です。発生部位は、皮膚はもちろん、皮膚との連続がある部位である口腔・頭頸部、肺、肛門周囲、子宮頸部などであり、発生部位の範囲は腺癌より狭いことが知られています。婦人科の癌で開発されたSCCという腫瘍マーカーが肺の扁平上皮癌で高い値を呈することがあり、実際の臨床に役立てている先生方もみられます。
 
 肺癌に関連し、いくつかの腫瘍マーカーに関する論文を私は書いてきました。「この腫瘍マーカーがよい」という論文の内容を人質に取られてしまうと私としては身動きができませんが、長い期間多くの医師が測定している事実から、やはりCEAやSCCといった腫瘍マーカーは有用性が高いと判断すべきなのでしょう。しかしながら、ある特定の臓器しか関連しない腫瘍マーカーがより有用なのか、多くの臓器に関連する腫瘍マーカーの方が優れているのかの判断は、それぞれの状況で異なるので、現場の判断が優先すると思っています。

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佐藤 浩昭 (さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科 1984年筑波大学医学専門学群卒 2009年より筑波大学水戸地域医療教育センター 教授 日本内科学会認定総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医