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健康診断オプションの腫瘍マーカー【第3回】臓器による腫瘍マーカーの解釈

佐藤 浩昭 (さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科

癌は恐ろしい病気だ。出来ればなりたくないと、誰もが思っているだろう。早期発見、早期治療ができるように、検診や人間ドックを受診されている方も多い。今回のテーマは、診療や検診で登場する「腫瘍マーカー」について。測定結果で異常が出ていた際には、患者にどのように伝えようか、医師も悩んでいるそうだ。腫瘍マーカーとの付き合い方を考えるシリーズ連載を、専門家に執筆いただいた。

 多くの臓器が関連する腫瘍マーカーは存在する一方で、泌尿器科領域の腫瘍マーカーであるProstate Specific Antigen(PSA)は、名前が示すように前立腺に「特異的」な腫瘍マーカーです。こちらも健康診断のオプションで健康保険外でも測定されていますが、相手が前立腺のみですから泌尿器医師の腕の見せ所の領域です。私の専門外なので詳しくはご専門の先生方にお聞きいただきたいところですが、こちらは信頼性を考えると検診のオプションに耐える検査であると私は考えています。
 
 さて、多くの臓器が関連する腫瘍マーカーに話を戻します。正常値であっても「偽陰性」があることをまず考えなければなりません。この話をすると検査を実施することの意義に関わってきますが、20世紀に開発された「腫瘍マーカー」の限界であり、限界のある検査であると考えて解釈すべきだと思っています。
 
 また検査値についても、測定法によりますが、異常高値となった際には、検体(多くの場合は血液)を希釈して測定し直しをしていることが多いのです。薄めた材料ですので、薄めたことによる誤差が大きくなることを知っておくべきです。つまり、異常高値の際には誤差が大きくなるので、たとえばCEAの5.5ng/mLと10.5ng/mLと1500ng/mLと1800ng/mLの違いは後者の方が変動が大きいかどうかは注意しなければならないということです。治療をしていて、患者さんも担当医も値が低下した際には喜びたくなるものですが。
 
 蛇足ですが、肺癌のマーカーとして開発されたはずがいつの間にか間質性肺炎のマーカー、免疫チェックポイントの薬剤性肺障害のマーカーとして臨床の場で汎用されている検査があります。これも異常高値の際には希釈後再測定であり、測定値の変動についての一喜一憂がどれほどの意味があるのか慎重に対応すべきであると考えます。
 
 さて、多くの腫瘍マーカーは、院内の検査部で検査ではなく、院外の検査センターに搬送してそこで測定されることが多いため、検査結果が判明するまでには、数日以上時間が必要となります。自分の受け持ちの患者さんで腫瘍マーカーを測定し、正常値であった場合、私自身も安堵する訳ですが「偽陰性」だったらどうなんだという一抹の不安は、医師であれば感じて診療にあたっているはずです。腫瘍マーカーを参考にはするが、それがすべてではないことを肝に銘じていらっしゃる先生方が大多数であると思っています。また異常値だった際には、追加の検査を必要とするのか頭を悩ますわけで、診療される側にとっても、診療する側にとっても「腫瘍マーカー」は本当に厄介な検査です。

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佐藤 浩昭 (さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科 1984年筑波大学医学専門学群卒 2009年より筑波大学水戸地域医療教育センター 教授 日本内科学会認定総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医