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経済の大きな流れ ―問題点と将来の展望― 【第6回】少子高齢化の悲劇

水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授

日本経済は成長力を失くした。それでも大きな歪みはなく、国民は安寧を貪っている。身近な目先の問題を議論するだけで、国全体の将来を考えることが少ない。しかし、個人にとっても企業にとっても、国家経済の影響は大きい。日本経済の将来を展望し、対応を考えるシリーズ連載。

少子高齢化の悲劇
 ―経済力の低下―

 少子高齢化がさらに進むであろう。全力を挙げて少子化に対応しなければならない。しかし一方では、その影響と対策を考える必要がある。
 
 現段階で最も重視されるのは人口の減少に伴う需要の縮小である。ものが溢れているにもかかわらず売れなくて景気が思わしくないからである。将来的にさらに需要が減れば、景気が下降し、日本経済は縮小していく
 
 我が国は半世紀以上も前から供給力過剰に悩まされてきた。需要不足を問題にしてきたと言ってもよい。デフレ経済の下で重視してきたのは需要の拡大である。需要が増加すれば、それに伴って生産が増え、経済は拡大する。人々が資金をより多く使うことが景気を活性化させ、その結果として企業の業績が上がり、賃金が上がって人々の懐が豊かになる。無駄遣いが奨励され、各種のローンを利用することが勧められてきた。
 
 その前提には強大な生産力がある。それは長年にわたり我々の先輩が努力を重ねて作り上げたものである。物を作り出すには多くの過程を経なければならない。多くの部品も必要である。それぞれが正確で精密でなければ最終製品の品質が良くならない。全体の水準が上がらないと成果につながらない。
 
 日本の製品が当初から良かったわけではない。長年にわたり改善を繰り返し、新しいことに挑戦し続けた結果、作り上げたものである。ところが現実には我が国の生産力が伸びなくなってきた。海外生産に力を入れたこともあり、国内の工場が閉鎖されるところが出てきた。産業の空洞化が進んでいる。
 
 依然として膨大な過去の蓄積があるため、まだまだ問題とならない。依然として生産力は大きく、需要不足が問題となる状況である。しかし事態は着実に変化してきている。それを端的に示すのが国際収支の悪化である。我が国の貿易収支の膨大な黒字が減少して赤字になり、赤字が増大していく傾向が経済力の低下を示している。この傾向はさらに加速すると考えられる。
 
 それでも問題は表面化しない。過去の蓄積が膨大であり、それを食い潰すまでには相当な期間、全国民が豊かに暮らすことができるためである。危機感が出ないままで安穏な生活を謳歌する可能性が強い。
 
 少子化に伴う人手不足がさらに進行し、引く手数多で働く場所はいくらでもある。いやな仕事を無理に続ける必要はない。より楽で報酬の多い職場へ変わればよい。苦労して新しいことを覚えたり、成果がでる保証もないことに挑戦することは流行らない。社会全体として、現状をいかに楽しく過ごすかに熱中する状況が続くと思われる。
 
 それが成り立つ前提がある。良いものが豊富にあることである。それらを国民が作り出すことの重要さをいつの間にか忘れられている。その重要性に気が付いた時には、国民が働く意欲を失っている恐れがある。そして、それを再び元へ戻し、勤勉で周りに気配りのできる国民性を取り戻すことは極めて難しい。
 
 少子高齢化が進み、より厳しい状況になることが予想されるだけに、我々はそれに備える必要がある。国民の意識をより高め、今を犠牲にしても将来のために挑戦する気概を取り戻さなければならない。
 
 

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水谷 研治(みずたに けんじ) 名古屋大学 客員教授 1933 出生
1956 名古屋大学経済学部卒業
1989 経済学博士(名古屋大学)
1956 東海銀行入行
1960-62 経済企画庁へ出向
1964-65 NY CITI Bankへ出向
1974-83 清水 秋葉原 八重洲 ニューヨ-クの各支店長
1983-92 調査部長
1993 東海銀行専務取締役退任
1993-99 東海総合研究所 理事長 社長 会長
1999-2008 中京大学教授
2012- 名古屋大学客員教授