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ゴルフ市場再興に向けたマーケティング戦略【第1回】

北 徹朗 (きた てつろう) 武蔵野美術大学准教授

1990年代前半に約1200万人を超えていたゴルフ人口は今日半減していることが複数の調査で明らかにされている。
ゴルフ人口の縮小は、ピーク時からのゴルフ関連市場規模の縮小とイコールの関係になっている。
・ゴルフ場市場(1兆9610億円→9010億円)
・ゴルフ用品市場(6260億円→3400億円)
・ゴルフ練習場市場(3140億円→1290億円)
この連載では、「ゴルフ市場再興に向けたマーケティング戦略」と題して、筆者の研究から得られた知見を紹介する。

第1回:ゴルフ人口激減期:本当の危機は2023年

バブル期以降、減少が止まらないゴルフ人口

『レジャー白書』(日本生産性本部)によれば、日本のゴルフ人口(コースラウンド)は1992年に約1480万人だったものが、2012年には約790万人と、20年間で約690万人もの減少が報告されている。最新の「レジャー白書2017」では、2016年のゴルフ人口(コースで年1回以上プレーしたことのある参加人口)は、さらに減少し550万人とされている。
 
これまで、ゴルフ業界では新規ゴルファーの開拓戦略に主眼が置かれることが多く、ゴルファーの離反理由については、明確なデータがなく不明な点が多く残されてきた。「ゴルフをやめた人、続けなかった人」の理由は後述するが、ゴルフ人口の年代別の構成比を見ると60代が23.1%、70代は29.7%であり、この層が最も分厚い。
 
数年以内にゴルフ人口の「激減期」が再び訪れる。本連載では、この点に着目しつつ『ゴルフ市場再興に向けたマーケティング戦略』と題し、各種データから見た提言を示したい。

 

ゴルフ業界で長年言われてきた「2015年問題」には明確な根拠はない

少子高齢化が進む中、様々な業界で「20××年問題」という言葉をよく見聞きする。例えば、筆者が従事する大学業界には「2018年問題」がある。踊り場の局面にあった18歳人口の減少が2018年から再び始まり、2031年までの間に約33万人も減少する。今後、大学の閉校や統合が相次ぐことは確実視されている。
 
他方、ゴルフ業界でも「2015年問題」が10年以上前から言われてきた。しかし、大学における2018年問題のように、根拠となる明確な数字がある話ではなく、「2015年問題」という用語だけが独り歩きしていたことも否めない。ゴルフ業界で言われてきた2015年問題は、巷の20××年問題とは根本的に性質が異なっている。
 
ゴルフ業界における「2015年問題」という用語は、おそらく、いわゆる団塊の世代、つまり1947年~1949年生まれの人が2012年から65歳になりはじめ、2015年にすべての団塊の世代が65歳以上(基礎年金受給者)になることから、経済的・体力的な両面から負担が大きくなり、ゴルフが続けられなくなるだろう、という考えがもとになっている。
 
しかしながら、大学の「2018年問題」のように、2015年を境にゴルフ人口が急減することは考え難い。つまり、団塊の世代が2015年をもって「ゴルフクラブを置く」という根拠はなく、実際にゴルフ業界はそれなりの平穏を保っている。ただ、「2015年問題」という用語によって、ゴルフ業界全体が10年以上に渡って危機感と緊張感を保つことができた、ある意味“Caution!”[皆さん注意しましょうね、という呼びかけ]としての用語機能はあった。

 

2015年を過ぎても数年は平穏が続く

日常的に介護などのお世話にならず、自立した健康な生活ができる期間のことを指す「健康寿命」は、「男性:71.19歳」、「女性:74.21歳」(2013年)であり、2012年(男性70.42歳、女性73.62歳)より1歳近く延伸している。これは、国や自治体を挙げて健康寿命と平均寿命の差を縮めるための、様々な取組が行われていることや、個々人の努力もあると思われる(図)。

図.日本人の平均寿命と健康寿命の推移

(厚生労働省:厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会(2014年10月1日)資料)


 
この数字からも、2015年を境に団塊世代がゴルフをやめて、急激なゴルフ人口減少は起こり得なかった。実際、北らが2015年1月に公表した「ゴルファーの離反理由についての調査」の結果を年代別に見ても、「ゴルフをやめた理由」として、「健康を害したから」という理由は、70歳以上の年代で回答率がはじめて上位に出てきている。つまり、60歳~70歳にかけての年代では、まだまだ現役ゴルファーとして活動することが可能であり、現実的に引退もしていない。

 

団塊世代以降も3年間は人口が多い世代

出生数が200万人を超えた年代は、団塊世代(1947年~1949年)以降も、実は3年間(1950年~1952年)に渡って続いている。本当の危機が訪れるのは、出生数200万人台最後の年である1952年生まれの人が65歳を迎え、団塊の世代が健康寿命(71歳)の年齢に到達する頃(2018年)以降ではないかと推測される。「2018年問題」あるいは1952年生まれの世代が健康寿命に到達する「2023年問題」と考えるのが妥当ではないか。
 
ただし、2023年は「出生数200万人超え」の最後の世代が健康寿命に達する年であるため、2018年以降から2023年までの期間、徐々にリタイアの波が大きくなる可能性を見据えておかなければならない(ちなみに1971年~1974年に生まれた世代も200万人を超えている)。

 

2020東京五輪と『18-23問題』

2016年のリオデジャネイロ五輪では、ゴルフが112年ぶりに正式種目に復活し、2020年には東京五輪の開催が決定したが、この時期の前後、ちょうどゴルフ人口激減危機の渦中にある時期に置かれている。
 
これまで述べてきたように、「2015年問題」に代わるキーワードとして「2018年問題」や「2023年問題」などが考えられる。しかし、健康寿命が年々延伸していることや、今後少々健康に不安を抱えている人でもゴルフ場に出かけることが可能な環境づくりや構造改革がなされるとすれば、2018や2023の数字の持つ意味合いも変わって来る。そのため、かつての「2015年問題」のように1つの年数で区切って考えるのではなく、数年の幅でのイメージで捉えて行く方が適切であろう。
 
いずれにしても健康寿命を考えることが1つのポイントであることは間違いないと思われる。ひとまず、「2015年問題」に代わるキーワードとして、『18-23問題』(イチハチ ニイサン問題)とでもしておく。

 

引用文献・参考文献

・北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、株式会社ゴルフ用品界社、pp.14-16
・北 徹朗、森 正明(2017)「ゴルファーの離反理由に関する研究-2020東京五輪に向けたゴルフ市場活性化への提言-」、『中央大学保健体育研究所紀要第35号』、pp.108-116
・北 徹朗(2015)「北徹朗の学窓からみるゴルフ産業改革案①」、『月刊ゴルフ用品界2015年4月号』、株式会社ゴルフ用品界社、pp.74-75
・厚生労働省(2014年)厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会・第2回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000059796.html)

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北 徹朗 (きた てつろう) 武蔵野美術大学准教授 博士(医学)、経営管理修士(専門職)。
日本プロゴルフ協会経営戦略委員、ゴルフ市場活性化委員会有識者委員などを歴任。
現在、武蔵野美術大学身体運動文化准教授、同大学院博士後期課程准教授。サイバー大学 IT総合学部客員准教授、中央大学保健体育研究所客員研究員を兼任。
1977年8月6日生まれ、岡山県出身。