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科学と現実の狭間で健康について考える 【第2回】健康的に生活するには、何事も適度に

今村 裕行 長崎国際大学大学院 健康管理学研究科 特任教授

多くの人間が「健康」な暮らしを送ることを望んでいる。しかし、ここで言われている「健康」とは果たしてどのような状態を指すのか。本稿はこのような疑問から始まり、健康を維持するための要素を様々な観点から解説する。その際に重視されるのは、厳密に定義された健康観ではなく、我々の実感により近い「おおらか」な健康観だ。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」という言葉のとおり、過剰な運動や減量はかえって健康を損ねてしまう恐れさえある。本稿を読むことで、偏りのある健康観は正され、飲食・運動の基準値を知ることができる。

第2回:健康的に生活するには、何事も適度に

私は、これまで健康に関する研究を行ってきました。研究を進めていく過程でよく思ったことがあります。健康は自らの努力によって獲得するものですが、極端に気を遣ってもかえって健康には良くないということです。「健康のためなら死んでもいい」こんな冗談を聞いたことがありますが、夢中になり過ぎても良くないと思うのです。以下、運動と栄養(水溶性ビタミン)、それにBMI(ボディマスインデックス)を中心にその理由を述べたいと思います。

 

運動

スポーツは青少年の体に刺激を与えることによって、発育・発達を促進します。適切な運動であれば呼吸・循環機能を高め、筋力を増強し、骨を強くします。さらにストレス解消などの心理的効果も認められています。しかしこれらの効果は、あくまで青少年の体が許容できる範囲内でなければなりません。過度な練習を強いることによって、生涯に亘って障害を抱えるようなことにでもなれば、「スポーツは青少年の健康を虫ばむ」と言っても過言ではありません。

子供のケガの特徴としては、使い過ぎ症候群と骨端症が挙げられます。使い過ぎ症候群には、肩や肘の関節の酷使による「水泳肩」「野球肩」「野球肘」などがあり、さらにバレーボールやバスケットボールなど、ジャンプ着地の繰り返しで多発するジャンパー膝、長距離選手に多い疲労骨折などがあります。また骨端症の代表的な例としては、「オスグッド病」が挙げられます。これは、10歳から15歳までの子供に多発し、膝蓋骨(しつがいこつ)(膝のお皿)の下がはがれ、骨の盛り上がりと痛みが出てくる疾患です。

私は小学校五年生のころからソフトテニスを兄に習って始めました。当初は楽しくやっていたのですが、少し上達すると兄に素振りを何百回もやるように指示され、連日必死にやっていました。当時は何も考えずにやっていましたが、知らず知らずのうちに「オスグッド病」を発症していたようです。高校から空手を本格的に始めたのですが、板張りの床で正座をするたびに膝の下の盛り上がっている骨が痛むのを、何とか我慢して座っていたのを今でも忘れられません。私が「オスグッド病」という疾患を知ったのは大学教員になってからですが、今考えると中学生の頃には発症していたのだと思います。還暦を超えた今も、硬い床で正座をする度に悩まされています。

運動をすると、エネルギーを消費することによって肥満になりにくくなります。運動のエネルギー源として糖を使うので糖尿病にもなりにくくなります。有酸素運動(10分以上は続けられる運動)を30分以上すると善玉コレステロール(HDLコレステロール)が増加し、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)や中性脂肪が低下しやすくなります。また血管の弾力も増し高血圧も改善され、心筋梗塞や脳卒中などの生活習慣病にもなりにくくなります。

適度な運動は、生活習慣病の予防や改善に役立ちますが、運動をやりすぎるとスポーツ障害を起こす原因にもなります。逆に運動不足になると、生活習慣病になりやすくなるのです。

 

栄養

健康的な日常生活を送るには、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどバランスのいい食事を適量摂ることが重要になります。しかしいくらバランスが良くても、食べすぎると肥満になりますし、極端に減食すると栄養不良になります。「バランス良く適量を」それが健康の鍵になります。

 

水溶性ビタミン(ビタミンB群やビタミンC)

ビタミンB群は、体内で、ご飯や麺類などの炭水化物をエネルギーに転換するのに必要で、これらのビタミンが不足すると、エネルギー不足に陥り、疲れを感じやすくなります。またビタミンCは、アドレナリンなどのストレスに対抗するホルモンを作り出すのに必要で、ビタミンCが不足すると、ストレスに弱くなります。

ビタミンB群やビタミンCは、水溶性ビタミンと呼ばれ、水に溶けるので摂りすぎても尿中に排泄されるため、体に及ぼす害はないと考えられてきました。しかし近年、水溶性ビタミンでも、過剰に摂ると下痢などの副作用が起きることが分かってきました。

スポーツ栄養の分野でも、水溶性ビタミンの摂取が極端に低いと体力が低下することが分かっています。逆に必要量以上に摂取しても体力は上がらないことも報告されています。

私は薄味の料理が好きで、妻が作ってくれる食事を毎日楽しみにしています。朝食は、ご飯を茶碗半杯、野菜たっぷり具だくさん減塩みそ汁(トマトを加えて酸味を出します)、脂肪ゼロのヨーグルト200g、低脂肪乳に一口大に切った季節のフルーツとバナナを入れ、食べながら飲んでいます。昼食は、おにぎらず150g一個だけ。夕食は、ご飯を茶碗半杯、野菜400~500g、手のひらサイズの肉あるいは魚、豆腐、大豆製品などを食べています。

 

BMI (ボディマスインデックス)

BMI(体重kgを身長mの2乗で割った値)が25 kg/m2以上で肥満と判定されます。例えば体重57kg、身長1.5mの場合、57 kg÷1.5m÷1.5m=25.3 kg/m2となり肥満と判定されます。若年者では、22 kg/m2程度であれば疾病は少ないのですが、18 kg/m2以下になると骨密度が低下したり、感染症に罹りやすくなったりします。逆に25 kg/m2以上になると、高血圧や糖尿病などの生活習慣病になりやすくなります。

一方、中高年者になると、22~23.9 kg/m2および25~26.9 kg/m2の間で死亡率が低下します。つまり中高年者は若年者よりも少し肥えている方が長生きするのです。いずれにしても肥えすぎれば生活習慣病になりやすくなり、痩せすぎれば骨密度が低下したり、感染症に罹りやすくなったります。

 

文献

・今村裕行他:イラストスポーツ・運動と栄養―理論と実践―.東京教学社, 2020.

・今村裕行他:イラスト健康増進科学概論.東京教学社, 2008.

・山崎昌廣、坂本和義、関邦博(編):人間の許容限界辞典.朝倉書店, 2015.

・原瀬瑞夫:いまスポーツで子どもが危ない.五月書房, 1990.

・Sasazuki S et al.: Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies. J Epidemiol, 21(6):417-30, 2011.  doi: 10.2188/jea.je20100180.

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今村 裕行 長崎国際大学大学院 健康管理学研究科 特任教授 カリフォルニア州立大学イーストベイ校運動学体育科卒業、同学科大学院修士課程修了. 中村学園大学栄養科学部栄養科学科准教授. カリフォルニア州立大学イーストベイ校客員教授. 長崎国際大学健康管理学部健康栄養学科教授(運動生理学、スポーツ栄養学、スポーツ医学、健康管理論、実践栄養学)を経て現職. 同大学名誉教授、空手道部総監督. 博士(工学)