ルネッサンス新書

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題 名『プルーストから村上春樹へ』岡本正明著

著者名
岡本 正明
ISBN
9784344927131
出版年月日
2020年1月30日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
文学・評論
概要

20世紀の文学は「時間」を、事実の連鎖としての「外的時間」ではなく、個人の心の持続性を表す「内的時間」として描くことを始めた。著者はこれを文学による「時間の発見」と捉え、その口火を切ったのはプルースト、ジョイスであったとする。第一部では、英米の作家を中心に、文学における時間の主題化を心理学的・哲学的アプローチで掘り下げ、第二部では美学上の問題に焦点を当て、ガルシア=マルケスやカフカなど、より幅広いエリアの作家を分析していく。そして20世紀を締めくくる作家として、村上春樹を取り上げ、彼が生み出した独自の時間表現の世界を読み解いていく。

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編集部より
本書では、アメリカ文学の研究者である著者が、プルースト、フォークナー、サルトル、リルケらの作品を紹介しつつ、世界文学において時間がいかに語られてきたかという点を論じている。当然、時間の内部で生じる様々な出来事を語るというのが一般的な小説の形式である以上、創作物と時間は切っても切れない関係にある。他方、本書で取り上げられている作品たちは、文学にとってまさに不可分の要素であるこの時間について、その残酷な移り行きに抗う術を見出そうとしたり、自らの心のうちにその居場所を用意しようとしたりすることで、言わばメタ的視点から扱うことに挑んでいる。

  物語ることと時間のあいだに緊密な関係があるのは、我々の経験が時間という形式を介さずして成立しえないゆえであろう。例えば「机の上にコップが乗っている」といった「静的」な事態でさえ、現在・進行中の出来事として捉えられている。したがって、時間について積極的に物語るという試みは、我々の経験を可能ならしめている前提についての言及であるともいえる。

経験という観点から見たときに興味深いのは、本書の第一部第六章で中心的に論じられている「死」の扱いであろう。死は我々の経験の埒外にあり、それゆえ本書でも引用されているとおり、レヴィナスに言わせれば端的に「理解不能」である。我々は死について、とりわけ他ならぬこの私自身の死について、いかに語ることができるのか。言語は死からその他者性を剥奪してしまうのだろうか、あるいは文学にこそ、経験不可能な死の謎を解き明かす鍵が秘められているのだろうか。この点は読者諸賢に解釈を委ねたいところだ。

冒頭にも述べたとおり、一般的な小説であれば必ずその作中では作品世界における時間の流れが存在する。しかし普段作品に親しむ際、恐らく我々はそのことに意識的でないはずだ。作中の時間経過について考えることで、プロットの妙や新鮮な描写に気付き、作品の魅力を再発見することも可能になりうる。専門家はもちろん、文学を愛するすべての方々に読んでいただきたい一冊だ。

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著者
岡本 正明