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題 名『脱原発社会を求める君たちへ』小野一著

著者名
小野 一
ISBN
9784344915923
出版年月日
2018年3月6日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
実用書
概要

福島原発事故は終わっていない。
悲劇を繰り返さないために、私たちには何ができるのか。
どうすれば原発に頼らない社会を作ることができるのか。
全原発停止を決めたドイツを手がかりに、原子力問題の「いま」を読み解く。
キーワードは「倫理」「政党」「欧州」「地域」「思想」「未来」。
第一線のドイツ政治研究者とともに考え、悩み、議論できる講演形式で
気軽に、でも真剣に、今後の日本のありかたを考える一冊。

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編集部より
2020東京都知事選が7月初めに行われ、候補者たちは自らの公約を都民に掲げ競い合った。遡って2014年の都知事選では、「脱原発」が多くの主要候補者にとって公約の目玉となっていた。今年の候補者は、もうほとんど原子力発電には言及していない。今はコロナウイルスの対策にこそ焦点を当てるべきで、原発どころではないというのが大方の判断であろう。しかし、本当に「原発どころではない」のだろうか。毒性の強い放射性核種の半減期は、長いもので24,400年にも及ぶのに?

本書『脱原発社会を求める君たちへ』において特筆すべきは、著者の徹底したリアリズムである。第一線のドイツ政治研究者として活躍する著者は、福島の惨事に衝撃を受け3月14日からいち早く脱原発に踏み切ったドイツの事例を詳細に分析している。当時のドイツ首相メルケル氏のこの判断に、世界各国が注目していたはずだ。ところで、メルケル氏の脱原発へ向けたこうした動きに、政治的な打算は一切介入していないのだろうか。また、検討は充分に行われていたのだろうか。こうした疑問に蓋をすることでドイツを理想化し、自国の遅々とした歩みを批判することは恐らくたやすい。その一方で著者は次のように語っている。

過度に理想化するのでもなく、すべてを打算や駆け引きに解消するのでもなく、現実を直視する姿勢が重要。(本文34頁より引用)

易きに流れるのは人の性だが、ここぞという問題にはぐっと脚を踏ん張り考え抜くことも重要だ。本書第3、4講では、著者の鋭い批判の目が欧州全体や各地域にまで及んでいる。原子力問題をあいまいなまま、単純化して眺めていた人々にとっては、目から鱗が落ちる一冊であると言えるだろう。

著者はイギリスの哲学者ベンサムの「最大多数の最大幸福」を改鋳し、「最大多数の最小不幸」を唱える。原子力発電にまつわる災厄や面倒ごと──とりわけ放射性廃棄物の問題──を、なるべく多くの者で分かち合い最小化しようという考えである。原子力発電の問題は、東日本大震災から10年目を迎えた今年も決して他人事ではない。「誰かが考えていればいい」と嘯く際に指さされているその「誰か」は、紛れもない我々一人一人なのだ。本書を読むのは、今からでも決して遅くないと言えるだろう。

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著者
小野 一