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題 名『地域包括ケアとは何か』金子努著

著者名
金子 努
ISBN
9784344916883
出版年月日
2018年12月4日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
実用書
概要

高齢化と人口減少が進む日本で、近年注目されつつある「地域包括ケア」。
その考えは、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるために、
医療・介護のサポートを行政の支援だけでなく、地域全体で取り組むというもの。
本書では、社会福祉学を専門とする大学教授の著者が、医療制度や介護の現場が抱える課題を示し、
地域包括ケアの在り方や重要性について解説。
広島県内の地域で行われている、
住民やコミュニティが主体となった具体的な取り組みも紹介している。
新しい形の高齢者ケアが目指すものは何なのか――。
多くの地域が抱えている高齢化の問題の解決に向けて、きっと一歩を踏み出す助けになる一冊だ。

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編集部より
日本国憲法第25条では、国民の「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されている。したがって、我々一人一人にしかるべき社会福祉が与えられるのは当然のことだ。本書は、そうした福祉制度が抱える問題点を鋭く指摘している。つまり、現在の政府は社会保障・社会福祉の守備範囲を狭め、そこからあぶれた領域を一般市場(各種ケアサービス等)に移すという政策をとっているのだ。筆者である金子努氏はこれを「福祉サービスの産業化」と呼んでいる。今や福祉サービスは、費用を支払い享受する「商品」に変わってしまったのだ。金銭的に余裕のある被介護者は充実したサービスを提供されるだろうが、貧困層は粗悪なサービスしか受けられない恐れがある。

そこで、打開策として筆者が提案するのが「地域包括ケア」だ。上記の問題を解決するには、地域社会全体のサポートが不可欠である。断っておくが、地域包括ケアは公的な福祉制度に取って代わる万能の救世主というわけではない。国からの支援は大前提に据えたうえで、普遍的ではあるが目の粗いサポートから漏れてしまう領野を、地域をあげて補おうということだ。公私二つのサポートがもつ利点を正確に把握したうえで、相互補完的に用いることを著者は求めている。1億人それぞれの特性にあったサポートを提供するよう求めるのは、国家に対する過剰な要求だろう。

したがって、重視すべきは地域の個々人の結びつきだ。被介護者一般ではなく、他ならぬその人が何を求め、何に苦しんでいるかを理解しているのは、本人に近いところで暮らしている人々を措いて他にはいない。

筆者はAIを使ったケアマネジメントについても言及し「AIは均質なものを確保するうえでは有効ですが、個別性の高いものへの対応は苦手です」とその弱点を看破している。人間の人間による人間のためのケアは、未だ高い価値を有しているし、その優位性が揺らぐことはしばらくないだろう。

そうした心と心、人と人との結びつきを支えるのが「対話」である。対話を通じて、自らとは全く異なる存在である他者を受け入れ、共生する能力──本書で示唆されているこうした在り方は、福祉やケアの問題圏を超え、これからの我々の生き方にも指針を示してくれるように思われる。

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著者
金子 努