ルネッサンス新書

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題 名『子供のキャリア形成』中尾豊喜編

著者名
中尾 豊喜(編者)
ISBN
9784344928367
出版年月日
2020年4月30日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
評論
概要

現代の日本社会は、急激な少子高齢社会、生産年齢人口の減少、
そしてグローバル化やAIの発展といった大きな局面を迎えている。
そのような中で、これからの社会を担っていく存在である0〜18歳の
こどもたちに対する教育のあり方も考え直す必要がある。
教育者や研究者が、「こども」期のキャリア(生き方に対する見方・考え方)
形成に焦点を当てて考察する。

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編集部より
本書の「はじめに」冒頭でも述べられているとおり、2019年5月から元号は「令和」に変わった。心機一転、新たな時代に向けて進みたいところではあるが、平成の時代が残した諸問題を避けて通ることはできない。数ある問題のなかの一つに、教育の問題がある。例えばいじめや、それを苦にした不登校・自殺といった人道的問題や、読解力や柔軟な思考力に欠けているといった学力面の問題などが挙げられるだろう。

本書では、編者である中尾豊喜氏(大阪体育大学教授。専門は学校教育学ならびに教育法社会学)を中心に、臨床心理士や教育学者、そして小学校に勤務する現役の教頭らの論が結集し、令和における教育の在り方を問うている。一言で表せば──書名に示唆されているとおり──キャリア形成がその当座の答えということになる。

しかし本書を読み進めていけば明らかとなるように、キャリア形成は例えば職業教育のようなものと完全にイーコールではない。むしろキャリア形成の本髄とは、この社会で他者と共に生きる能力全般のことを指しているように見受けられる。したがって本書で提言されているのは、これまでの教育の在り方を根本的に変革しようとする企てというよりも、既存の学校教育の潜在的有用性を、キャリア形成という視点から再発見しようという試みである。本書では国語・算数といった主要科目から、外国語学習、スクールカウンセリングや部活動に至るまで幅広い学校生活が網羅されている。「なぜ学校で学ぶのか」という点に疑問を抱いたことのある人々は、本書を携えたうえでぜひ再度考えていただきたい。

 人と人、主体と主体との関わり合いのうちにキャリア形成の地盤を見出すということが、本書を通底しているテーマだ。こうした主題からは、日本哲学の大家である和辻哲郎の思想が想起される。「人」の「間」に生じる倫理的関係こそが「人間」存在の根本構造を形づくっているという同氏の思想の視座から見れば、本書『こどものキャリア形成』もまた、現代の実践的知見をふんだんに取り入れた倫理学の書として読み解くことが可能であろう。

 外務省は「令和」という元号の意味を、“beautiful harmony”という英訳で諸外国政府に示した。「美しい調和」という名を冠した現代のキャリア形成教育は、まさに人々の美しい調和のうちにこそ見ることができるのかもしれない。

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著者
中尾 豊喜(編者)