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題 名『「私」という最大の謎』鈴木敏昭著

著者名
鈴木 敏昭(すずき としあき)
ISBN
9784344916678
出版年月日
2018年4月10日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
人文・思想
概要

記憶を移植されたクローンは「私」なのか。
脳以外を機械に置き換えたなら、それは「私」たりえるのか。
ヒトが自我を手にした日から「私」という概念に対する興味は失せない。

本書は、だれもが一度は考えたことがあるであろう「私」という巨大な疑問符に対して挑む作品である。

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編集部より
マルティン・ハイデガーの主著『存在と時間』の冒頭は、「存在」の意味という大きな謎を、我々が何ら問題視していないという事態を告発するところから始まっている。哲学の本分はこのように、問いを改めて目覚めさせる営みにこそある。そういわれてみればどうしてだろうか、と読む者に思わせて引きずり込んでしまえば、その人はすでに哲学の手の中にいるのだ。

その意味で本書は、まさに哲学の正統な入門書ともいえる。本書が取り組むのは〈私〉という問題だ。言い換えれば、この書評を読んでいる〈あなた〉のことでもある。他ならぬこの〈私〉とは何者かという問題にこれまで与えられてきた様々なアプローチを概観することで、本書はこの問題に潜む謎の深みへと読者をいざなっていく。〈私〉についてそもそも問う必要があるのか。〈私〉の存在は単なる偶然に過ぎないのか。〈私〉が死ぬと世界はどうなるのか。〈私〉が感じている「この赤」と同じ赤を他者も感じているのか。本書を読めば〈私〉というこの存在者(ないしその経験の総体)を軸に、圧倒されるほど多様な問題が噴出するのを目の当たりにするはずだ。

本書では雑誌『現代思想』の2019年11月号にて特集された「反出生主義」や、同誌2020年6月号で特集された「汎心論」など、昨今の思想界で際立った注目を集めているテーマについても言及されている。上述の多数の問題群と併せて考えれば、〈私〉というある意味では最も原初的な次元から、現代思想を通覧することさえ可能であるように思われる。

本書では触れられていないものの、〈私〉という存在者の自己同一性も問題となりうるだろう。毎日1兆もの細胞を入れ替えている昨日の〈私〉と今日の〈私〉は同じ〈私〉であるのか。〈私〉を問うその前に、「私」という語で果たしてつねに同じそれを指示できているのかという問題が立ちはだかる。〈私〉を巡る古典的な哲学的命題にはまだまだ興味深いものがある。本書を読み終える前と後では、違う〈あなた〉がそこにいるかもしれない。

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著者
鈴木 敏昭(すずき としあき)