ルネッサンス新書

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題 名『悪の知性に挑む』坂本進著

著者名
坂本 進(さかもと すすむ)
ISBN
9784344973305
出版年月日
2015年11月10日
価格
857円+税
投稿日
キーワード
人文・思想
概要

人間は常に自己を磨き、温かい家庭を築き、社会とうまく付き合おうとするのを、信条とするが、本性には、人間としての弱さや、不順な心情がいつも去来し、外面に掲げる善とは裏腹に、内面は、常に自己愛を育み、身内や自己の属する社会の利益のみを追求しながら悪とは無関係であるかのように装う、本書は、現代における真の悪とは何か、悪の根を断つために、いまどう行動すべきか奮い立たせてくれる。

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編集部より
本書は、我々の生から切り離しがたい「悪」についての見解を整理するなかで、その本性に迫ろうと試みる一冊である。平和と繁栄を夢見て進歩を続けているはずの我々が、それでも悪から脱却できないのはなぜなのか。あるいは中世的世界観でいえば、善たる神の作りしこの世に悪が存在するのはなぜなのか。悪の問題はこのように、我々の暮らしと密接にかかわる切実な問題として、種々様々に考えられてきた。

坂本氏は第5章において、他者関係について中心的に論じている。もしも他者に何らかの仕方であだなすことを「悪」と呼ぶのであれば、他者について考えることと悪について論じることは不可分の関係にあるはずだ。筆者はレヴィナスの思想を取り上げ、征服不可能な絶対的に他なる者としての他者概念を紹介している。SNSを通じて手軽にフォロワーやフレンドをつくることのできる昨今、こうした思想に読者は新鮮な印象を持つかもしれない。あるいはむしろ、人とつながることの空虚さ・手ごたえのなさが浮き彫りとなったように思われる現代においてこそ、共感を呼びうるようにも思われる。
ジュディス・バトラーは『自分自身を説明すること:倫理的暴力の批判』(月曜社、2008年)のなかで、「もし他者を自由に生かすことが承認に関するあらゆる倫理的定義の一部をなすなら、こうした承認の説明は、知に基づくのではなく、認識論的諸限界の把握に基づくことになるだろう」(本文81頁)と述べている。言い換えれば、我々が他者を他者として尊重するには、他者について隈なく知り尽くすのではなく、むしろ他者における知る由もない不可侵の領域があることを認める必要があるということだ。全てを知ったつもりになる傲慢さは、坂本氏が批判する偽善者に似たところがある。他者とかかわりあうとき、我々は暴力を行使する恐れをつねに抱えている。悪は我々と無縁なものではありえないのだ。
このように、悪は我々と付かず離れずの関係にある。筆者はその要因の一つを「明示できる価値が消失してしまった」(本文314頁)ことに見出している。「神は死んだ」という宣告でもって、キリスト教的価値の失権とそれに伴うニヒリズムの到来を示したニーチェと、この考えはパラレルであろう。悪の問題は100年後、1000年後の我々にも同様に立ちはだかるであろう。我々にまずできることは、そこから背を向けず向き合うことだ。

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著者
坂本 進(さかもと すすむ)