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題 名『老いと死 老人は諦観を持て』網野皓之著

著者名
網野 皓之(あみの ひろゆき)
ISBN
9784344918979
出版年月日
2018年10月2日
価格
800円+税
投稿日
キーワード
生活・暮らし
概要

現代の老人の新たなる「生き方」と「死に方」を提言。

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編集部より
「死はわれわれにとって何ものでもない」。古代ギリシアの哲学者、エピクロスの言葉である。この発言の大意は至ってシンプルだ。つまり、死んでしまえば快苦を経験することはできないのであり、したがって死は──快苦の区別をそのまま善悪の区別とみなすエピクロスにとっては──善悪どちらともいえない。すなわち「何ものでもない」ということだ。

これに似た考えを、筆者も本文中で述べている。「私たち人間は死そのものというよりも死への過程や死の状況を恐れているのかもしれない」(本文36頁より引用)。たしかに、死に至るプロセスには多くの痛苦が伴う。我々がしきりに恐れているのは、むしろこうしたプロセスの方だというわけだ。裏を返せば、それさえ克服できれば、死は恐れるに足りない「何ものでもない」ものになると言える。

こうした観点から当然注目されてしかるべきなのが、安楽死という選択肢であろう。本書の第12章「尊厳死・安楽死──法制化を急げ」には「死なせることも医療であってよいと思う」(本書204頁より引用)という印象深い言葉がある。「QOL」(生命の質)という言葉が一般的となった今、それを犠牲にしてまで延命治療を施しつづけることには懐疑的であるべきだろう。来たる死を受け入れるという決然とした最期を選択する権利は、真の「SOL」(生命の尊厳)を実現するために不可欠である。元来は対義語として考案されたQOLとSOLは、この点で交差しうるのではないだろうか。

本書の本題からは逸れるが、後書きに記された著者自身の生のありようも極めて感慨深かった。脳梗塞に続き白内障を発症し、それにより左眼を失明してしまった筆者が、手術を受けることでようやく本書を完成させたという経緯には、死への恐怖を超克した生の謳歌を見ることができる。死なないために生きるのではなく、自らに与えられた使命のために生き抜く。「天命」という言葉のもつ二義性は、まさにここにこそあるように思う。

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著者
網野 皓之(あみの ひろゆき)